番外編 キスより簡単

第2部 サンシャインラブ




次の日
遂に作文発表の日。次々と朗読されていくクラスメイトの作文。トウジと綾波は欠席
(ちゃんと仲直りできたのかしら・・・・)
心配そうにアスカを見るヒカリ。その背中はどこかしらいつもの覇気が感じられない
そんな中、順番が来て、アスカは立ち上がって作文を朗読し始める
「美しい日本の私。惣流・アスカ・ラングレー」
(別に題名に凝らなくてもいいのに)
ヒカリはそう思いながらアスカの声に耳を傾けた。

「私の家族はアル中の葛城さんと飛べない役立たずの鳥とバカです。最初私が太平洋艦隊を
引き連れてVIP待遇で日本に来たときは一人暮らしをすることになっていたのですが、アル中の
仕事の都合で一緒に暮らして欲しいと言われて仕方なく一緒に暮らすことにしました。当然、先に
住んでいたバカは用済みだったのですが、また仕事の都合でなんとなく住まわせて欲しいみたいに
言ってきたので家事をする条件で本当に仕方なく住まわせてやっています。ただの同情と哀れみ
で住まわせてやっているので、それ以外には本当に理由はありません。だから2人は付き合っている
とか当然キスまでいったとか影で噂されるのは心外なのでやめて欲しいのです。だいたいバカはバカ
な上にガキなので私とは到底つりあわないのです。だから2人は夫婦だとか言うのは本当にやめて
下さい。一緒に暮らし始めてバカが私がアメリカ帰りだと知ってエリック・クラプトンの 『チェンジ・ザ・
ワールド』を聞かせて 『この曲大好きなんだ。アスカさんも好きですか?』などと聞いてきました。
私はあまりジャズブルースとか聞かないのですが『知らなかったとてもいい曲。シンジくんて
センスあるわね』といってあげるととても喜んでいました。とてもガキだなと思いました。あとバカは私に
料理を作るのが生きがいみたいに頑張っているのですが大学で栄養学を学んだ私からみてとてもダ
メなのです。バランスが悪い。でも私は面と向って言ってやるのは失礼だと思ってさりげなく注意する
と熱心にメモを取ります。そしてたいしておいしくなくても 『おいしいわよ』と言ってあげると犬みたい
に尻尾を振って喜ぶのでまあいいかと思ってしまいます。あとバカは電話が鳴るとすぐに取りに行
きます。そして嬉しそうに私に渡すので私が『ありがとうシンジくん』と言うととても喜びます。しかし
私が電話しているとジっと聞いていて私が『シンジ君。人のプライバシーなんだから盗み聞くのは
よくないわよ』と優しく注意すると常識の知らないバカは自分の無知さを知って顔を赤らめます。
私の事を神のように崇めているわりにバカすぎてまったく意志の疎通ができないのです。でも
バカはバカですが注意するとわかるみたいなので私は根気よく直してあげているのです。
バカがこっそりアル中と一緒にビールを飲んでいるのを見ましたが直接注意するのではなく
さりげなく教えてやるのが日本の美徳だと私は知っているのでさりげなく注意してあげています。
そうやってバカを導いてやるのが優秀で美しい私の義務なのです。それが美しい日本から学んだ、
美しい日本の私です。おわり」


アスカは席に座った。そんなアスカをヒカリはため息まじりで見た
(よくそんな作文を書いて朗読してみせたわね・・・・・・・)
なんだかなーっという空気が教室中に広がっているのをアスカはわかっているの
だろうか? アスカの背中は何も語らない
次々と朗読されていく作文
そしていよいよ、シンジの順番になり、シンジは立ち上がった
「明るい家族計画。碇シンジ」
(しょっぱなからやってくれました)
のけぞるクラスメイト一同、静かに朗読するシンジ。頭を抱えるアスカ、微動だにしない根府川先生。

「僕の家族はアル中の葛城さんと飛べない役立たずの鳥とアスカさんです。最初僕は一人暮らしを
するはずだったのですがアル中の仕事の都合で一緒に暮らすことになったのです。アル中は生活
能力がまったくなくて生きるために仕方なく僕が家事をすることになったのです。その後アスカさんが
太平洋艦隊に護送されてやってきた弐号機にくっついて日本にきて、なぜか家に転がり込んできた
のです。当然先に住んでた僕は反対でした。だから僕は家を出て一人暮らししようと思ったのですが、
また仕事の都合でそのまま暮らしているうちにアスカさんも生活能力がまったく皆無であることが
判明し、仕方なく僕が家事をして養ってあげることになったのです。だいたいアスカさんは大学出てい
る天才なはずなのに料理の一つもできないので一人では生きていけないのです。それ以外には本
当に理由はありません。だからアスカさんはベッドではどうなのとか子供はいつできるのかとか影で
噂されるのは心外なのでやめて欲しいのです。だいたいアスカさんは特別な選ばれた人間らしいの
で僕とは到底つりあわないのです。一緒に暮らし始めて僕が部屋でエリック・クラプトンの 『チェンジ・
ザ・ワールド』を聞いていると、アスカさんは勝手に部屋にズカズカ入ってきて 『こんな曲聞いてんじゃ
ないわよ』とCDを引っ張りだすと『こんな小奇麗にしたクラプトンなんて私は認めないのよ!昔みたい
にきったない音でダラダラ弾けっていうのよ!ジャズブルース?ハァ?薬でラリってないクラプトンなん
てプランクトン以下よ!調子ノンな!へべれけでサンシャインラブを歌いなさいよ!』といって凄い剣幕
で怒鳴り散らしていました。とてもマニアだなと思いました。あと僕が栄養のバランスと外国育ちなので
宗教上の理由で食べれないといけないので魚や野菜ばかり出してると 『ちょっとシンジなんで同じ料理
ばかりなのよ』と言うので説明すると 『ハア?アタシは無宗教よ。むしろアタシ自身が神なのよ。だから
豚も牛もドンドン出しなさいよ』と高笑いしながら言うので『じゃあこの石をパンに変えてみろよ』と言うと
『アンタってつくづくバカね。ヒトはパンのみに生きるんじゃないのよ。アタシの言葉によって生きるのよ』
とのたまいます。そんな神の子であるアスカ様は忙しい中工夫して料理して出しても一度も『おいしい
わよ』などと言ってくれません。いったいどんな料理なら『おいしいわよ』と言ってくれるのか困り果てて
いるのですが残さず犬みたいに平らげてくれる食いっぷりが凄いのでまあいいかと思ってしまいます。
あとアスカさんはまったく電話を取りません。僕が用事をしていて手が離せない時でも平然と『あいのり
』を見ています。先日食事中にアスカさんへの国際電話かかってきて渡すと『あら無敵のシンジ様にこ
の様な雑務をさせて申し訳ないですわね』と電話を取っただけなのに嫌味を言ってきます。そしてそ
のまま食事を続けていただけなのに電話を終えたアスカさんは『なにジロジロ見てんのよ』と絡んで
きます。『さっきまでニコニコしながら電話してたのにどうしたんだよ』と言うと『フン。好きでニコニコし
てるワケじゃないわよ。義務よ義務。上っ面だけ。ホントの母親じゃないけど一応育ててくれたんだし。
でも嫌いってわけじゃないのよ。ちょっと苦手なだけで・・・なんでアンタにこんな事話さなきゃなんな
いのよ!バカ!』と怒鳴って部屋に戻っていきます。僕も流石にどうしていいのかわからなくてアル中
に慰めてもらって愚痴を聞いてもらっているとアスカさんがやってきて『フン負け犬。そうやって酒飲ん
で愚痴ってるのがお似合いだわ』と言って歯を磨いて寝てしまいます。僕には将来なりたいものなんて
何もない夢とか希望のことも考えたことがない14歳の今までなるようになってきたしこれからもそうだ
ろう。だから何かの事故やなんかで死んでしまってもかまわないと思ってた。だけど今僕が死んだら
きっとろくでもないことになるのは目に見えます。それにもっと家族って楽しいものなんだと思ってい
るのですがなかなか僕達はうまくいかないのです。でも家族なんて別に定義なんてないからただ
一緒に住んでるだけでも家族だと思うのです。楽しく過ごせればいいし楽しく過ごしているのでいい
かなと思うのです。おわり」


ところどころからこぼれる笑いの中、シンジは席につく。アスカは頭を抱えたまま動かない。
全員の朗読が終わり、根府川先生が静かに口を開いた。
「はい。みなさんよく書いてきましたね。今日の授業はこれで終わります。あと碇くんは職員室に
来るように。では」
「起立、気をつけ、礼」


「スーッ」
アスカは息を吸って勢いよく扉を開ける
「加・持・さ・ん」
「アスカか。すまない。いま忙しいんだ」
つれない加持の背中をアスカは睨みつけ、抱きついた
「ダーメッ忙しくてもぜーったい聞いて欲しいことがあんのっ」
「わっとと。わかったよ少しだけだぞ」
加持はノートパソコンを閉まって向き直る。アスカはかしこまって切り出した。
「昨日の・・・・ことなんだけど」
「あーおまえがシンジ君とキッスしてたことか。大丈夫だよ誰にも言わないよ」
「だからそれは誤解なのよッ。てゆうかなんで加持さんはミサトと覗いてたのよ!」
「いやアレは二人で飲んだ帰りに家に寄ってちょっと驚かせてやろと思ってだな。でもお前らがそんな
関係になってたとはなァ。全然気づかなかったよ」
「加持さん人の話聞いてる?あれはただの冗談の遊びなの。バカとはぜんっぜん何でもないのッ
わかってるでしょ。アタシが好きなのは、加持さんだけなんだから」
思いつめた少女の告白。加持は微笑ましくも冷たく答えた。
「君が俺に特別な好意をもってるのは知ってるよ。でもそれは、いわゆる恋とは別の感情だ。
君が知ってるのは俺の上っ面だけだろ。俺の弱さも醜さもほんとのところは何もわかっちゃいない。
単に一番身近にいて一番見てくれのいい俺を好きだという気がしてるだけだよ」
「違うわ!!」
「違わないサ。子供は家帰って『ふたりはプリキュア、スプラッシュスター』でも見てろ」
と、言って食い下がるアスカに背を向けて・・・・・
「ア、アスカ!」
突然上着を脱ぎ出したアスカに大慌ての加持さん
「なにしてんだ!よせっ」
「よく見て」

少女とオンナが同居する肉体を誇示して叫ぶ
「子供子供ってふた言目にはそんなこと言ってごまかして!逃げないでよ!子供かどうかちゃんと私を
よく見て!!アタシは本気なの!加持さんにならアタシを全部あげてもいい!」
手をあてたふくらみかけの胸に目をやってしまう加持さん
「この前・・・好きな人がいるのにウジウジしてる友達がいて、助言したの好きならちゃんと告白しな
よって・・・明日は何があるかわからないから伝えたい気持ちがあるならちゃんと伝えろって。
でも・・・そう言ってからそれはアタシ自身にも言えることだって気がついて、だからアタシもちゃんと
伝えようって」
アスカは嘘を言った。でも勇気が欲しかった。ヒカリの気持ちを、力を借りて、顔を上げる。
「わかってよ加持さん。アタシの気持ち」
据え膳を前にして加持さんはゆっくり歩み寄る。
「わかった。おまえの気持ちはよくわかったよ。もうおまえの事を子供だとは言わない・・・」
そう言ってアスカのふくらみかけに手を伸ばした
「う」
アスカは目を閉じた。

「・・・・・・・・」
もう片方の無骨な加持さんの手がスカートの中に入ってくる。そして薄い布に隠れた部分に・・・・・
「きゃあっ」
アスカはしゃがみこんでしまった。
「・・・・・・・」
しばしの沈黙があった
「ち、ちがうの、加持さん、ちょっといきなりだったから・・・」
アスカが言い訳すると加持さんはハハハと笑いながら優しく上着をかけた。
「子供だとは言わないけど、カラダだけがアスカの全部なら俺はいらないサ」
「え・・・・・」
「アスカの気持ちも全部くれなきゃね。でも整理できてないみたいだから・・・」
アスカの肩をつかんでクルっと出口に向ける
「ちゃんと整理してから、またおいで」

つづく

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