番外編 キスより簡単

第1部 キスへのプレリュード




ミサトの帰りが遅く、いつものように2人きりで晩御飯食べるシンジとアスカ
「ふう、ごちそうさま」
「お粗末さまでした。アスカ、お茶淹れてくれよ」
「イヤよ」
「お茶淹れてくれよ」
「イヤって言ってんのよ。聞こえなかったの?アンタつんぼ?」
「・・・・・・・不適切な発言があったことを深くお詫びいたします」
「ちょっとどこに向って話てんのよ!」
「お前ちょっと食後のお茶くらい淹れてくれったっていいだろうが!」
「イヤよ!」
「なんでだよ!」
「はん!そういうお茶くらいとかいう態度が気に入らないのよ!アタシはアンタのメイドじゃない」
「お前の淹れてくれたお茶が飲みたいんだよ」
「そうやって少し気の利いた事言えば女は誰でも喜んでくれると思ってるところも気に入らないわ!
なに?それで女心掴んでるつもり?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「フン!黙っちゃってさ。言い返せないの?アンタおし?」
「・・・・・・・・・再び不適切な発言があったことを深くお詫びいたします」
「つうかアンタ最近学校終わって本部に行くまでどこか行ってるでしょ!なにしに行ってるのよ!」
「・・・・・・・」
「はん!どうせまたどこかの女の所でしょ!」
「・・・・・・・・・・」
「むぅぅ・・・・・ほらやっぱり女の所なんじゃなーい。バーカ」
アスカはそう吐き捨てて自分の部屋に戻った。

ばふっと音をさせてベッドに飛び込み、リモコンでCDをかける。
I Want You (She's So Heavy)
大好きなジョンが大嫌いなヨーコのために歌った曲
「嫌い、嫌い、大嫌い」
クッションに顔を埋めて足をジタバタ。ベッドの上をゴロゴロ
行く当ての無い気持ちを拡散させる。
するとシーツの中から片っ方だけの靴下がでてきた。
「あ・・・・・・・」
それはいつかミサトの三佐昇進パーティの時にシンジが言ったのだ
(葛城三佐さんは葛城サンタさん、さあアスカも靴下の中に願いを書いてベッドにおいておけよ)
今考えるとバカバカしい話だった。だがシンジはミサトの部屋に靴下を置きまくるほとんどイヤガラセに
近いカタチで何か買ってもらっていたっけ。そして自分も気の迷いで何か書いたのだ。
すっかりその存在を忘れていたアスカだったが書いた内容は覚えている。
(素直になれますように)
アスカは靴下ごとゴミ箱に投げ捨てた


次の日、学食
「それはアスカが悪いと思うわ」
ヒカリはため息つきながら言った
「いくらなんでもひどすぎるわ」
「でもなんで女だからってなんでお茶淹れなきゃいけないのよ。前時代的よ」
「そこまで言ってないけど・・・・・相当怒ってるのかも・・・・・」
「はん!別にいいわよ。気にすることないわ」
「でも碇くん、それでもアスカのお弁当作ってきてるのに・・・・・仲直りした方がいいと思う」
「アタシにお弁当作るのはアイツの義務なんだからいいのよ。どうせしばらくしたらあっちから
頭下げてくるわよー」
心配気な顔のヒカリに笑って答えるアスカだった


帰りのホームルーム
「えーという訳で自分の家族について作文を書いてきて下さい。明後日にみんなの前で発表して
もらいますので・・・では」
「起立、礼、着席」
クラスメイトが帰る準備をしてる中、アスカは硬直したまま動けなかった
(や、やばい・・・・・・・・・・)
おそるおそる振り向くとシンジが駆け足で教室から出ていく姿が見える。
「・・・・・・・・・・・・・・・」


次の日
昼休み、アスカは屋上でたたずんでいた。
昨日シンジと口をきかなかった。今日の朝も顔を合わせなかった。
テーブルに置かれていた自分用のお弁当も持ってきたものの、食べる事もできずに
ボンヤリと風景を見ている。
「アンタはアタシのドレイなのよ」
昔、そんな事をシンジに言ってしまった自分。当たり前だと思っていた日常がこんなにももろく崩れて
しまった。シンジはきっと他の女に逢ってから本部でエヴァに乗り、私と暮らすのだ。一生ワタシと
口を利くこともなく・・・・・・・・・・
家族についての作文。アタシの家族。ふしだらなアル中オンナ、羽ばたけない役立たずの鳥
心通わせなくなった同級生。それがアタシの家族
シンジ
アンタはアタシのことをどう書くの?
突風が前髪を吹きつける、仰け反るように天を仰ぐ。
羽ばたけないのはアタシの方。ならばこのまま飛んでいってしまえばいい。
不安な気持ち、意気地なしの心、大嫌いな自分。なにもかもいっしょくたにして、
どこかに流れていけばいい・・・・・・・・
「アスカ!」
肩を叩かれて振り向く
「ダメじゃない・・・このままじゃなんの進展もないわよ。家族の作文でとんでもないこと書かれちゃうわ
みんなアスカと碇くんが一緒に住んでること知ってるんだから」
しょうがないわねとため息をついてるヒカリ
「なんでもっと私に相談してくれないの?アスカ。私達友達じゃない」
笑顔で励ましてくれるヒカリ
「・・・・・なんのこと?アタシにはさっぱり」
「もうとぼけてないでっ!仲直りしたいんでしょっ!」
ちょっと怒ってみるヒカリ
そんなヒカリにアスカはなぜかイラついた

「うるさいなーヒカリには関係ないでしょ」
「関係あるわよー」
「・・・・・・・なんで?」
心の中を覗くようにジトーっと見つめて見る。ウブで正直者なヒカリはぎょっとして口ごもった
「な、なんでってそれは・・・」
「ヒカリには鈴原がいるでしょ?」
「!!!」
「あの熱血バカも最近学校に来てないじゃない?人の心配してる暇があったら自分の心配しなさいよ
だからもうアタシのことはほっといて」
プイと横向いてみせる。
(イヤな女だなアタシって・・・・・)
「ダメよ。そんなの!」
珍しく大声を張り上げるヒカリにびっくりしたアスカ
「な、なによ・・・」
「私は・・・・そんな気弱なアスカみたくないもの。ほっとけないわ!」
「別に・・・・アタシ加持さんが好きなんだし、シンジなんてなんとも思ってないし・・・」
「ねえアスカ。今のこの時代のこと考えてごらんなさいよ。あたしたち今はこうしてのほほんとしてるけど
明日は何が起こるかわかんないのよ。伝えたい気持ちがあるならちゃんと伝えとかなきゃ」
「ヒカリ・・・・・・・」
ウインクしてみせるヒカリにアスカもこれ以上拒否できる力はなかった。

「相田!」
「はいっ」
ヒカリに呼ばれビクッとなるケンスケ
「あんたも考えるのよ。あんた碇くんと仲いいんだからわかるでしょ。どうしたらアスカが碇くんと
仲直りできるか」
(そんなこと言われたって・・・・・)
なぜかヒカリに屋上まで連れて来られているケンスケ。悩むケンスケ
「普通にゴメンナサイって言えばいいんじゃないの?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
ダメみたいだった
「なんでダメなんだよ・・・・・・・」
「もっと他にないの?それ以外で」
「ええ?んーと。じゃあキスしてあげるとか?」
「な・・・・・・・ダ、ダメに決まってるじゃない!バ、バカじゃないの!」
「なんでだよーゴメンナサイが言えないんだったらしょうがないじゃん」
「相田にはデリカシーってもんがないの?女の子のキスはそういう時にするもんじゃないのよ!
わかってないわね!キスっていうのはもっとこう、恋人同士の大切な時だけにするものよ。
ね、アスカ」


「ねえシンジ、キスしようか」
「は?」
いつもの、夕食後のけだるい夜、できるだけさりげなくアスカは言ってみた。
シンジは読んでいた本から顔を上げて見上げる。
「キスよキス。したことないでしょ?」
それはウソだった。ちょっと前、ちょうどこんな誰もいない夜に、2人はキスした。
でもそういうことにアスカはしておきたい。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
久々にアスカから話し掛けてきたのがコレなので、シンジが不思議そうな顔するのも無理もない話だ。
だが拒絶する素振りはみせてない。アスカはそう直感した。
「じゃあ、しよう」
「どうして?」
「退屈だからよ」
それもウソだった。本当は作文を書くのに忙しい。でもシンジの作文で自分を悪く書かれるのは困る。
「ハハハ」
シンジは鼻で笑う。そしてアスカを見る。まるで心を見透かしているみたいに。
だがそんなことではアスカは引き下がれない
「ミサトがいない時にアタシとキスするのイヤ?どこからかコッソリ覗いているかもしれないからって
それとも怖い?」
「ああ・・・・怖いな」

「へーえ怖いんだ。ただの遊びなのに」
シンジはゆっくり立ち上がる。
「やっぱアンタって臆病者ね。ま、最初からわかってたけど」
「ハハハ」
笑いながら行こうとするシンジ。なぜかとてもさびしい気分に襲われてアスカは呼び止める
「ちょっと待ちなさいよ!シンジ!いったい何がそんなに怖いの?」
「もっと好きになっちゃうからさ」
「っ!」
そのまま行こうとするシンジ。アスカは思わずシンジの服を引っ張った。
「?」
「・・・・・」
「なんだよ?」
「・・・・・・・・も、もっと好きになったらいいじゃない」
「・・・・・・・・」
シンジはゆっくりこちらを向き直った。
そのまま立ち尽くす
気まずい雰囲気にアスカは慌てた。さっきまでただの遊びだった。なのになんか変な雰囲気になっ
てる。違うこんなつもりじゃなかった。ドキドキ。はう!これじゃまるで恋人同士の大切な時みたい
じゃない。ああ!シンジの顔が近づいてきた。どうしょうどうしょう。鼻息がこそばゆい。もうそんな所
まで近づいてきている。ちょっと!目閉じてよ!そんなに見つめないでよ!やめてよ・・・・こっちも目
閉じれないじゃない。
いいわよもう、ずっと見つめてるから・・・・・・


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ガタンッ
「!」
大きな物音がして、アスカは逃げるようにそちらを見た。
そこには、床で抱き合うように倒れ込んでいるもう一組の男女
「なにやってんの、加持さんたち・・・・・・・」
「お、おまえたちこそ・・・・・・・・」

つづく

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