「じゃあ。俺の夢はどこ?」
「それは現実の続き」
「俺の現実はどこ?」
「それは、夢の終わりよ」



















#6. 閉塞の拡大















巨大なレイの首元に切れ目が入り、勢いよく血が吹き出して傾いていく首
その血は月へと向う
月面に赤い返り血が付着していく

茫然としているシンジ
覗き込んでいるレイ

「綾波?」
微笑むレイ
「ここは?」
「ここは、LCLの海。生命の源の海の中」

シンジの胸に埋まった形で一体化しているレイの両手
シンジの身体に半分融合しているレイの下半身
2人の身体は溶け合っている






「ATフィールドを失った。自分の形を失った世界。どこまでが自分でどこからが他人なのか分からない。
曖昧な世界。どこまでも自分でどこにも自分が居なくなっている脆弱な世界」
「・・・・・俺は死んだの?」
「いいえ、全てが一つになっているだけ。これがあなたの望んだ世界そのものよ・・・・・・・・嬉しい」
シンジの胸元へ倒れるレイ
「碇くんとこうして繋がり合えるなんて」
「俺も嬉しい・・・・・・・・・・」



長い時。水面、月、地球に囲まれ
2人は蠢き、心のままに求め合う
流れているミサトのペンダント






「でも、これは違う。違うと思う」
「私のこと嫌いなの・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめんなさい。わがまま言って。私、悪い子」
きゅっとシンジの腕にしがみつくレイ
「ごめん・・・・・・・・」
その髪を優しく撫でるシンジ






「他人の存在を今一度望めば。再び、心の壁が全ての人々を引き離すわ。
碇くん。女はね。結局自分しか愛せないの。だからどんなに碇くんが愛しても離れていくの。
どんな女と一緒になって家庭を作っても、女は自分の子供しか愛さないわ。あなたなんて
給料配達人ぐらいにしか扱わないの。傷つくだけなのよ。その中でも特にあの女は傲慢で
自分本位でいかがわしいアダルトビデオのオムニバス作品に軽率にも出演するような安い女で、
おまけに自分は人気者だと勘違いして『ケンカ番長』とか笑えるタイトルでキモい歌歌ったり、
実写映画に出演して痛い姿を晒して失笑買ってるのにも気づかず『私ってマルチタレント。
オタク共のアイドル声優なんて枠に捕らわれるのはまっぴらゴメンよ』とか言って純粋なファンを
悲しませて育ててもらった出世作の映画版でもヒゲもじゃ監督やスタッフが真剣に作った作品を
『気持ち悪い』の一言で終わらせて優越感に浸るの。しかもマンションでたまたま隣の部屋だった
同郷の3流マンガ家に股開いた勢いで結婚したりするの。その上自分から歩み寄ろうとしないくせに
『性格が合わなかった』とか言って簡単に離婚してスタントマンの筋肉バカ男を唯一のとりえである
アニメ声を使ってゲットして『やっぱり男は強くて逞しくて包容力がある男じゃなきゃ』とか言って
さっさと中出しさせて妊娠して半ばムリヤリに結婚するの。あまつさえ出産したら自分だけ偉業を
達成したみたいな顔して『世の中ってうまく出来てるな。やっぱ神様っているんだな。今までやって
きたアニメなんて全部ゴミクズよね』とか言って某富野みたいに愛してくれたファンの心を平気で
泥靴で踏み汚すような発言をする女なの。そんな女なのよ。また、他人の恐怖が始まるのよ」
「・・・・・・いいんだ」
レイの右手を引き抜いていくシンジ。自らの右手をレイの左足から抜きその手へと持っていく。
「ありがとう」
握り合う2人の手






「あそこではたくさんの女の子に手を出してニッチもサッチも行かなくなってた気がする。だからきっと
逃げ出してもよかったんだ。でも逃げたところにはいいことはなかった。だって女の子がいないもの」
レイの膝に頭を乗せて甘えるようにスリスリするシンジ
「綾波みたいに食べちゃいたいくらい可愛くて優しい女の子がいないもの。誰もいないのと同じだもの」
優しく覗きこみ、愛おしむように髪を撫でるレイ
「再びATフィールドが君や他人を傷つけてもいいのかい?」
「カヲルくん・・・・今いいとこなんだよ。愛し合う2人の世界を邪魔しないでくれよ・・・ってなんで服着て
んの俺!?」






制服姿で向かい合うシンジとレイ、カヲル
「ったく・・・君達はいったい、何?」
「希望なのよ。ヒトは分かりあえるかもしれない、ということの」
「好きだという言葉と共にね」
「だけどそれは見せかけなんだ。自分勝手な思い込みなんだ。祈りみたいなものなんだ。ずっと続くは
ずないんだ。いつかは裏切られるんだ。俺を見捨てるんだ・・・・でも」
微笑んでシンジを見守っているレイ、カヲル
「でも、そう、俺は俺だ。ただ、他の人たちが俺の心の形を作っているのも確かなんだ!!!!!」
微笑んでいるレイ、カヲル






「ごめんよ。まだ・・僕には帰れるところがあるんだ・・・こんなに嬉しい事はない」
微笑んでいるレイ、カヲル
「マヤさんは、マヤさんはいるかい?こいつをこいつをよ..もらってくれ。あんたによ..もらって欲しいんだ」
微笑んでいるレイ、カヲル
「寒い。ひどく寒いんだアスカッシュ・・・僕もう、疲れたよ・・・・」
微笑んでいるレイ、カヲル
「ミサトえもん きみが帰ったら部屋ががらんとしちゃったよ。でも…すぐになれると思う。だから…
…心配するなよミサトえもん」
微笑んでいるレイ、カヲル
「変なこというなよ。大百科のことなら、もうとっくにあきらめたよ。これからはコウゾウ斎さまに頼らず
 自分の力でりっぱな発明をしていきたいと思うんだ。それにはやはり勉強しなくちゃな」
微笑んでいるレイ、カヲル
「さようならゲンドウパパさようならリツコママさようならヒカリちゃん
 またいつか魔太郎が帰ってくる日まで…さらば!!」
微笑んでいるレイ、カヲル






「間違いはしたけれど、エヴァンゲリオンを汚したことはない」
微笑んでいるレイ、カヲル
「サードチルドレンとしての誇り、魂みたいなものは向こうに置いてきた」
微笑んでいるレイ、カヲル
「我が特務機関ネルフは永久に不滅です!」
微笑んでいるレイ、カヲル
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・別れが辛いんだね。シンジくん」
俯くシンジ。
微笑んでいるレイ、カヲル
「なあ、もう一回最初からやってもいい?」
「かまわないさ。シンジくんのしたいようにすればいい。でもどこからやり直すんだい?」
「綾波と裸で溶け合ってるところから・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
シンジとカヲルに背を向ける、制服のリボンに指をかけるレイ
「・・・あっち向いてて」






つづく

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