作業をしながら袖で涙を拭く。
「おんななんていくらでもいるさ、いくらでもな」
一人寂しく砂城を元に戻しているシンジの背中












#3 不安との密月















ベッドの上
「だぁーーもおーーっあんた見てるとイライラすんのよっ!」
強く怒鳴るアスカ
「自分だけイケなかったからって怒るなよ」
ダルそうなシンジ




「ママッ!!」
ヌイグルミを抱いてるアスカ
「・・・ママ」
アスカの寝言
「ママ?」
「・・・結局シンジ君の恋人にはなれなかったわね」






マンションの窓。干されている洗濯物
ミサトの部屋。机の上、UCCの缶コーヒーと電話
ミサト「んーねぇ・・・しよ」
シンジ「またかぁ。今日はアメリカから来るセカンドチルドレンを迎えに行くんじゃなかったっけ?」
ミサト「ん、ああ、アスカね。いいわよ。まだ時間あるし」
シンジ「もう一週間だぞ。ここでゴロゴロし始めて」
ミサト「だんだんね、コツがつかめてきたのよ。だから。ね」






アスカ「あ・・・・・・・」
ミサト「多分ね。自分がここにいる事を確認する為にこういう事するの」
リツコ「身体だけでも必要とされているものね」
ミサト「自分が求められてる感じがして、嬉しいのよ」
アスカ「こ、これがこんな事してるのがアタシが来るまでのミサトとシンジ?」
ミサト「そうよ。これも私。お互いに溶け合う心が写し出すアスカの知らない私」
アスカ「・・・・バ、バッカみたい。たださびしい大人が分別もつかない子供の中学生を誘惑して
慰めあってるだけじゃないの!」
ミサト「本当の事はけっこう痛みを伴うものよ。それに耐えなきゃね」
アスカ「イイイージーに自分にも価値があるんだって、お、おも思えるものね、そそそそれって」
ミサト「本当の事はけっこう痛みを伴うものよ」
アスカ「っ!!!!!・・・あ、あーあ私も大人になったら、か、加持さんとあんなことするのかなあ」
ミサト「耐えなきゃ、ね?」
アスカ「くっ・・・・・・・・」







アスカ「ねえ・・・キスしようか」
ミサト「ダメ」
アスカ「ミサトは関係ないじゃん!黙っててよ!」
ミサト「子供のするもんじゃないわ」
アスカ「子供子供ってふた言目にはそんなこと言ってごまかして!逃げないでよ!子供かどうかちゃんと私を
よく見て!!」
シンジ「じゃいくよ」
アスカ「・・・・何もわかってないくせに。私の側に来ないで!」
シンジ「わかってるよ。アスカの気持ち」
アスカ「わかってないわよ、バカっ!アンタ私の事わかってるつもりなの?救ってやれると
思ってんの?それこそ傲慢な思いあがりよっ!!わかるはずないわ!!!」
シンジ「ああ、わからねえよ。アスカ何もいわないじゃん。何も言わない何も話さないくせにわかってくれ
なんて無理だっつーの」






夕日に染まる電車の車内
レイ「碇くんはわかろうとしたの」
シンジ「わかろうとした」
鼻先に突きつけられるアスカの胸と髪
アスカ「バーカ。知ってんのよ。アンタがアタシをオカズにしてること・・・いつもみたくやってみなさいよ。
ここで見ててあげるから」
シンジ「ヘヘヘいつの話だよ、ソレ」
アスカ「っ!」
垂れてるリボンをチロチロ舐めるシンジ
シンジ「僕はとっくに卒業しましたが。未だに一人エッチが好きなのはアスカさんの方じゃないですか?
伊達に洗濯してませんよ、うへへ」
アスカ「っっ!・・・・・アンタが全部アタシのものにならないならアタシ、なんにもいらない」
シンジ「だったら俺に優しくしてくれよ」
アスカ「や、やさしくしてるわよ!」
シンジ「ウソつけっ!笑った顔でごまかしてるだけだ。曖昧なままにしてるだけじゃないか」






レイ「本当の事はみんなを傷つけるから。それはとてもとても辛いから」
シンジ「曖昧な物は俺を追い詰めるだけなのに」
レイ「その場しのぎね」
シンジ「このままじゃ怖いんだ!いつまた俺が要らなくなるのかもしれないんだ。ザワザワするんだ。
落ち着かないんだ。声を聞かせてよ!俺にかまってよー!」






ミサトの家のリビング
テーブルに座ってうつむいているアスカ
足早に近付いてアスカにすがりつく感じのシンジ
「何か役に立ちたいんだ。ずっと一緒にいたいんだ!」
「じゃあ何もしないで、アンタアタシを傷つけるだけだもの」
「アスカ、助けてよ。ねえ!アスカじゃないとダメなんだ!」
「・・・・・嘘ね」
さげすんだ目でシンジを見るアスカ
後ずさるシンジ、立ち上がって迫るアスカ
「アンタ!誰でもいいんでしょ!ミサトもファーストも怖いから!お父さんもお母さんも怖いから
アタシに逃げてるだけじゃないの。それが一番楽で傷つかないもんねっ!」
「楽じゃないよアスカは。俺は傷ついてるよ」
「アンタエッチなことしか頭にないのよ。女の子が傷ついてるの気にもしないのよ。自分の欲望
しかないのよ!ホントに他人を好きになったこと、ないのよ!」
「今から本当に好きになるんだよ」
「触らないでよ気持ちワルイ」
「アスカ俺を助けてよ頼むよ」
「ウザイ死ね。かわいい女の子だったら誰だっていいくせに!」
シンジを突き飛ばすアスカ。倒れ込むシンジ。






「痛ってえな・・・ じゃあお前はなんなんだよ。料理はしない洗濯はしない掃除はしない。でも
文句言うことは一人前 。だいたいお前加持さん好きとか言ってるくせになんでミサトと暮らしてんの?
おかしいだろ恋敵だろ。何仲良く暮らしてんだよバカじゃねえ?どうせ口だけなんじゃねえか。
ホントに他人を好きになったことないのはお前だろうが!」
「なんでアンタにそんな事言われなくちゃなんないのよ!アタシに隠れてミサトとやってるくせに!」
「それがどうしたんだよ!ああ!それこそお前に関係ないだろうが!お前は加持さんが好きな
んだろうが!俺はミサトとうまいことやってんだからお前は加持さんとこ行けや!いやならこの
家から出てけよ!」
「なんでアタシが出ていかなくちゃいけないのよ!アンタが出て行きなさいよ!」
「お前よそ者だろうが!おまけに傲慢高飛車自意識過剰コミュニケーション能力0でみんなお
前に迷惑してんだよ!大学出てるからってみんなを見下してんだろ!エヴァにも乗れなくなった
んだからお前に居場所なんかもう無いんだよ!いい加減気付よ!」
「・・・言ってくれるじゃない」
「育ての親のとこ帰りたくなきゃ ここにいるしかないんだよ!お前みたいなメンヘル女もらっ
てくれるのは俺くらいしかいないじゃねえか!」
「よくそれだけ言ってて平気でそういう事言えるわよね。アタシに隠れてコソコソヒカリに手出し
てるくせに!」
「ああっ!」






「アタシが知らないとでも思ってんの?」
「お前には関係ねえよ!」
「関係あるわよ!・・・アンタはアタシの居場所奪っていく。家にいたらミサトとイチャイチャ。学校
行ったらヒカリとイチャイチャ。本部に行ったらファーストとイチャイチャ。エヴァだって…アンタは
アタシの目の前でアタシの大切なもの全部奪っていく!!」
アスカの瞳、溢れた涙にうろたえるシンジ
「アスカ・・・」
「触るなクズ野郎!」
アスカ、キック
アスカ、平手打ち
シンジ、咄嗟に手を上げ反撃しようと
「殴りなさいよ!」
「・・・・・・・・・・」
「アンタの気持ちよくわかったわよ!アタシの事嫌いなんでしよ!さあ早く殴りなさいよ!」
「・・・・・・・・・・」
「殴れよ!」
「・・・・・・・・・・」
「殴ってみろよ!この野郎!」
シンジをひっぱたくアスカ
抵抗できないシンジ
「この野郎この野郎この野郎・・・・・・・・」
グーで殴りだすアスカ。シンジの胸に飛び込んで勢いよくタックル。背中を壁にぶつけるシンジ
声も無く肩を震わせるアスカ。その肩をそっと抱くシンジ






長い沈黙






「・・・・・・・・・シンジあんたって弱いわ」
「・・・・・・・・・」
「弱くて臆病で意気地なしで逃げてばかりでちょっと優しくされたら自分の事好きなんだとすぐ
勘違いしてホイホイ行っちゃう。ダメな男。くらたまもびっくりのだめんず☆うぉ〜か〜。ほんっとに
ダメな、弱い奴・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「でもだから・・・弱いから誘惑に負けるのよね」
「・・・・・・・・・」
潤んだ瞳でシンジを見つめるアスカ
「弱かったから誘惑に負けたの。そうよね。そうだったのよね。ミサトのことやみんなのことも・・・
気の迷いだったのよね。そうなのよね。それだけなのよね。そうなんでしょ。若さ故の過ちだったって
言ってよ、ねえ、アレはちがうんだって否定してよ。全部気の迷いだったって・・・そう言ってよ」
甘えるようにそっと頬を寄せるアスカ
「そう言ってよ・・・・・・・」






アスカの髪を撫で、震える肩を抱き、耳元に優しく唇を寄せ、囁くシンジ
「アレは、アレは全部・・・・・・・慈善事業だったんだよ」
「・・・・・・・・・・・」






飛びつくようにシンジの首に手を伸ばすアスカ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最っっっっっ低!」
首を絞めるアスカ。無抵抗なシンジ







「誰もわかってくれないんだ」
「何もわかっていなかったのね」




つづく

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